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脊髄への直流電流刺激によるスプリントサイクリングパフォーマンス向上の試み


  • 相模女子大学短期大学部食物栄養学科 笹田周作
  • 植草学園大発達教育学部 遠藤隆志
  • 東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科 石井 智也
  • 東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科、千葉大学大学院教育学研究科 小宮山伴与志

研究概要

陸上やスケートの短距離種目の様な短時間のスプリント運動であっても疲労が生じます。近年、疲労によるパフォーマンスの低下に中枢神経系も関与していることがわかってきました。そこで我々の研究グループは、中枢神経系から活動する筋へ伝達される下行性指令を修飾できる脊髄への直流電流刺激を運動前に与えることで、スプリント運動時の疲労軽減を試みました。その結果、刺激をある条件で行った場合、スプリントサイクリングにおける疲労を軽減し、高い平均発揮パワーを維持できることがわかりました。この成果は新たなスプリント運動トレーニングの開発につながると可能性を持っています。

研究の背景

100mや200m走といった数秒から十数秒間の全力運動であっても疲労が生じ、運動の遂行に伴って発揮パワーの低下が生じます。近年この疲労の原因は筋だけでなく、脳・脊髄といった中枢神経系でも生じていることが明らかにされてきました。例えば、全力の肘屈曲を継続し、疲労が生じた際にその主動筋を支配する脳部位へ刺激を与えると、刺激により誘発された中枢神経系のさらなる興奮によって、単収縮に似た発揮トルクの増大が生じます(Gandevia et al., 1996)。この単収縮性トルクの出現は、被験者が全力での力発揮を継続しているにもかかわらず、中枢神経系からの下行性指令が全ての筋線維を適切に動員出来ていないことを示しています。つまり、運動の継続により発揮パフォーマンスが低下していても、筋にはまだ力を発揮する余力が残されているのです。従って、この中枢性に生じる下行性指令の機能低下を改善することが出来れば、疲労を抑制し、さらなるスプリントパパフォーマンスを発揮できる可能性が考えられます。

研究成果

我々の研究グループは、筋への下行性指令を修飾出来る脊髄への直流電流刺激(図A)に着目し、運動前に刺激を与えることで、その後に行う30秒間全力スプリントサイクリング(図B)の発揮パワー低下を改善可能か検討しました(Sasada et al., 2017)。脊髄への直流電流刺激は、異なる2条件の電流方向(図A、Anode/Cathode刺激)、及び対象条件として刺激を行わないSham刺激条件の計3条件を試しました。図Cは被験者1名の発揮パワー曲線を示しています。3条件とも最大パワーはほぼ同等ですが、その後に生じる発揮パワーの低下に注目すると、Anode及びSham刺激条件と比してCathode刺激条件で、高い発揮パワーを保っていることがわかります。被験者15名で30秒間の平均発揮パワーを比べると、Cathode刺激条件で、他の条件より高い平均パワーを発揮できることがわかりました(図D)。

A:脊髄直流電流刺激の電極配置。ピンク(Anode)及びブルー(Cathode)の長方形は刺激電極を表している。人形は身長170cmのモデルを用いた。
B:スプリントパフォーマンス評価として自転車エルゴメータによる全力サイクリング運動を用いた。
C:各刺激条件における被験者1名の発揮パワー曲線。
D:被験者15名における30秒間の平均発揮パワー。図中の“S”、“+”、及び“-”はそれぞれ“Sham刺激”、“Anode刺激”、及び“Cathode刺激”を表している。
*図C及びDはElsevierのNeurosc. Lett., 657:97-101 (2017)より許可を得て掲載 (License No.: 4322201294417)

これからの展望や社会的意義

この技術はアスリートのさらなるスプリントパフォーマンスを引き出せる可能性があります。この事は、これまで考えられてこなかったパワー発揮における中枢神経系のトレーニング開発につながると考えられます。今後は安全性及び倫理性を踏まえながら、現場への応用を目指す予定です。

参考文献

  • Gandevia SC, Allen GM, Butler JE, Taylor JL, (1996) Supraspinal factors in human muscle fatigue: evidence for suboptimal output from the motor cortex. Journal of Physiology 490: 529-536.
  • Sasada S, Endoh T, Ishii T, Komiyama T, (2017) Polarity-dependent improvement of maximal-effort sprint cycling performance by direct current stimulation of the central nervous system. Neurosci Lett 657: 97-101.

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