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タイ在住日系国際児のアイデンティティと仕事に対する意識調査


学芸学部 英語文化コミュニケーション学科 小泉 京美

研究概要

グローバル化で日本企業の海外拠点の現地化が進む中、東南アジア各国に進出する日系企業現地法人子会社(※注1)は、人材確保(採用・育成・リテンション(※注2))が大きな課題であり、特にマネジメント層の現地人材確保が難しいことが課題となっている。一方、1985年のプラザ合意後の世界経済の変化にともない労働市場も変化し、海外に職を求める日本人も増え、国際結婚をする日本人の数も増加している。厚生労働省のデーター(1995年~2006年)によると国際児(※注3)の出生数も毎年300人前後が続いている。本研究は、国際結婚した両親から生まれ、文化・習慣が異なるバイカルチュラル(※注4)な環境の中で育った国際児の仕事に対する意識調査を実施、グローバル人材の適応可能性を問う研究である。調査の結果、日英泰3か国の言語を習得している人材が多く、仕事の選択志向は居住国の影響を受ける傾向にあるが、仕事に対する考え方は両国間の良い点を取り入れ、双方の文化を理解している強みを活かして仕事をしていこうと考えるバイカルチュラルな考え方の持ち主であった。少数データーの中の結果ではあるが、両者の文化を理解している人材は日系企業において貴重な存在であり、これからのグローバル人材の新たな研究の枠組みの提示が実施可能であると考える。

研究の背景

多文化のバイカルチュラルな環境の中で育った国際児に関する研究は、文化人類学、教育学、社会学の検知から増え始めているが(藤岡2014、渋谷2013、Hara2103)、多くの研究が複数の言語と文化が存在するバイカルチュラル環境やアイデンティティの問題を扱ったものが多い。職業や仕事に関して人々が持つ価値観を研究したホフステッドの研究はあるが、当研究におけるIBM社1万人のサンプル調査の中に国際児が含まれているかは明らかではない。本研究は、国際児が増えている現状を踏まえた上で、世界第2位の規模を誇る日本人会があるタイに着目し、タイに住み日本人学校に通った経験のある国際児と海外で生まれ育った日本人子弟を対象に行った予備調査である。

研究成果

調査方法

  1. 調査参加者:企業に勤めているバンコク在住の国際児で日本人学校に通った経験のある年齢28歳・29歳の女性6名(両親の一方が日本人、他方がタイ人または他のアジア圏または、タイで生まれ育った日本人およびタイで学んだ事がある帰国子女) 出生地:タイまたは日本
  2. 調査時期・場所:2017年9月5日~6日 ショッピングセンター内のカフェで面談
  3. 調査方法:アンケート調査ならびに半構造化面接(1回2時間程度)。主な内容は、対象者の取り巻く環境、仕事環境、仕事に対する考え方、組織に対する考え方。アンケート調査は日本語。意味がわからない場合は、日本語、またはタイ語で説明。

調査結果

◆Table 1 調査参加者の属性

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◆Table 2 調査対象者の仕事属性

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◆Table 3 言語能力(日本語・タイ語・英語)4技能の能力

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◆Table 4 仕事に対する意識

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本調査の対象者であるバイカルチュラルな環境の国際児は、泰日両国の「言語」と「文化」の理解度は高く、英語能力もビジネス対応可能な言語能力を備えた人材であった。アイディンティティに関しては、バイカルチュラル環境で育った人材は、二国文化を融合して肯定的で独自のアイデンティティの考え方「国際児としてのアイデンティティ」を形成しているという鈴木(2014)と同じ結果となった。仕事の価値観は、「職を変えていないため転職ではない」という言葉からも、組織に帰属するのではなく仕事に帰属すると言われているタイ人気質や欧米的な思考傾向にあると考えられる。仕事そのものが成人してからのことであるため、職業選択に対する考え方は、成人した居住国の影響に左右される傾向にあるが、仕事に対する考え方は、両親の国籍と育った環境に影響されてか、両国間の良い点を取り入れて仕事をしようとする考え方を持つ「バイカルチュラル人」であった。今回の調査の新な発見は、国際児が二重国籍を保有し、仕事や遊びで国籍を使い分けていることであった。

これからの展望や社会的意義

本調査対象は、全員同じ時期に日本人学校という教育環境の中で育っており、少年期に異なる教育環境で過ごしているサンプルがないことから、本調査だけで断定することはできないが、バイカルチュラルな環境で育った子弟が、グローバル人材として活躍する要素を持っているのではないかという期待は考えられる。本研究は、これからのグローバル人材の新たな研究の枠組みの提示が実施可能と判断した。

専門用語の解説

  • 注1:海外現地法人(overseas branch):企業が海外に進出する際、現地の法律に基づいて設立される法人。現地の会社に資本参加する場合にもいう。(大辞泉)
  • 注2:リテンション(retention):人事労務用語 企業にとって必要な人材を維持(確保)するための施策等を指す。
  • 注3:国際児( )本稿では、両親の片方が日本人で外国国籍保有者との間で生まれた子弟を意味する。
  • 注4:バイカルチュラル(bicultural):2か国の言語・習慣・道徳などを、その国の人と同レベルに身につけているさま。また、理解できるさま。(大辞泉)

参考文献

  • 藤岡 勲(2014)『2つの民族的拝啓を持つ人々の両拝啓を統合したアイデンティティ』心理学研究13 pp24-40
  • G.ホフステッド 岩井紀子 岩井八郎訳「多文化世界‐違いを学び共存への道を探る-」有斐閣
  • Hara,M(2013 )Mixed -heritage-Japanese-Filipinos/shinnikkeijin in charge of intimate labor. Journal of intimate and public spheres,2(1) pp39-64
  • 渋谷真樹(2013)「スイスの学校と日本語補習校に通わせる国際健康家庭 志水宏吉・山本ベバリーアン・ 鈴木一代(2014)『バイカルチュラル環境と文化的アイデンティティ:日独国際児の場合』埼玉学園大学紀要(人間学部編)14 pp15-28
  • 厚生労労働省人口動態調査 http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html

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