めまぐるしく変わる世の中、新しいものを学ぶ傍ら、古き良きものを愛し、 未来にバトンをつなげるための学びを行う学生がいます。 今回はそんなサガジョ学生の中から、日本語日本文学科の学生たちの、 伝統芸能や文化を継承するための取り組みをご紹介します。

古代文学から現代のサブカルチャーまで幅広く学ぶことができます。
「ゆっくり学ぶ、しっかり生きる」を目標にしており、教員は教師になりたい、司書になりたい、文学の道に進みたい……
さまざまな夢を描く学生たちの未来をサポートします。

ユネスコ無形文化遺産に登録された、日本の伝統芸能。江戸時代までは猿楽と呼ばれ、明治14年に能楽社が設立され、「能楽」と呼ばれるようになりました。能楽独特の所作(カマエ、型、舞)を用いて舞台が構成され、言葉や節回しは室町時代の様式を残していると言われています。サガジョでは、宝生流能楽師(シテ方)の藪克徳先生による実践を交えた授業が行われ、受講生は白足袋を着用し、謡と仕舞いを習います。2013年夏には、佐渡の能舞台をお借りして実習が行われ、地域の方々との交流会では授業で稽古した「熊野」を披露しました。

『小倉百人一首』を用いた、ルールが確立されたかるた取りで、明治時代以前から行われていました。対戦は1対1で行われ、100枚の字札のうち50枚を半分ずつ互いの陣地に並べて競い、自陣の札を早くなくしたほうが勝者となります。海外での人気も高く、競技人口は約2万人以上いると言われています。サガジョでは、卒業生で競技かるた界で活躍し、永世クイーンとなった渡邊令恵先生による授業が行われ、ルールの習得、実戦練習を経て、神奈川県初心者大会に出場します。

春原美咲さん
学芸学部
日本語日本文学科・2年

斎田千智さん
学芸学部
日本語日本文学科・2年

中川環さん
学芸学部
日本語日本文学科・1年

川上真璃さん
学芸学部
日本語日本文学科・1年

畠中優果さん
学芸学部
日本語日本文学科・1年

柿木原教授:相模女子大学では、日本の伝統を学ぶ、独特のカリキュラムを行っています。そのひとつが『能楽』。ふだん接することのない『能楽』を学んでみて、いかがですか?

春原さん:宝生流能楽師である藪克徳先生が教えてくださる『伝統文化実習Ⅰ』という授業を受講して、能楽という伝統芸能の魅力を、実際に自分たちが体験することで、詳しく学ぶことができました。シカケやヒラキといった基本的な所作や、謡(うたい)といういわゆるバックコーラス的な役割がどのように構成されているかなど、初めて知ることばかりで、授業のたびに驚きがあります。私はこうした特徴的な授業に興味があって参加しましたが、今までならスルーしていた日本の伝統芸能に触れることができて、毎日のアンテナの張り方が変わったように思います。

斎田さん:勉強するまでは、能って、なんかつまらなさそう?って思っていたんですが、おもしろい!!楽しい!!って思えるようになりました。とくに男性が演じるものというイメージが強かったのですが、女性でも舞うことができると知って魅力が倍増しました。舞台で鑑賞した『藤』※という演目がとてもきれいで、印象に残っています。華やかな衣装や、美しい女性が登場する『藤』は、私が女性だからなのか、すんなりと受け入れられました。

※『藤(ふじ)』 都に住む僧侶が善光寺参りに赴く途中、藤の花に見とれ、藤を詠った古い詩を口ずさみます。すると、ひとりの女性が現れ、なぜその詩を詠んだのかと、僧侶を咎めます。僧侶が怪しく思い女性の身の上を訪ねると「自分は藤の花の精である」と告げて姿を消します。夜、法華経を読経し、藤の花の下で寝ようとすると、ふたたびその女性があらわれます。読経のお礼にと、藤の美しさを謡い、舞い、やがて朝が来ると、霞の中に消えてゆきます。

柿木原教授:授業で習ってから観に行くのと、何も知らないで観に行くとでは、大きく違いますね。

中川さん:はい。私はもともと演劇をやっていたので、同じ舞台に立つものとして、能楽のことを知りたいと思ってこの授業を選択したんです。でも、学んでみたら、同じ舞台でも声の出し方も何もかも違ったので驚きました。歴史の中で培われたものだけに、動きのひとつひとつにもすべて決まりがあり、伝統の重みを感じました。

柿木原教授:2013年度から、伝統芸能のコースを1年生から取ることができるようになり、また、佐渡能合宿が実施され、参加した学生に今回集まってもらっていますが、練習したり見たりするだけでなく、実際に能舞台で演じてみた経験は、いかがでしたか?

斎田さん:授業では、基礎的なことからじっくり学ぶことができるのですが、メインイベントは何といっても実演だと思います!2013年の9月に新潟県佐渡市に行き、羽茂地区にある能舞台をお借りして、学んだ成果を披露させていただいたんですが、とても良い経験を積ませていただきました。ただ単に能を観るだけではなく、こうして実地で行うことで、能楽のもつ魅力を堪能できたように思います。

柿木原教授:佐渡のみなさんから、温かい歓迎も受けましたね?

春原さん:はい。わずか3泊4日の合宿でしたが、佐渡のみなさんがとても歓迎してくださり、うれしく思いました。地元のTV局から取材を受けたりもしたんですよ。着いた日からみっちり稽古をしたのですが、それでもなかなかうまく演じられず……もっと時間が欲しい!もっと練習しておきたかった!と痛感しました。能という伝統文化を通じて、佐渡の方と交流できたことも貴重な体験です。

中川さん:私も1年生ながら合宿に参加させていただいたのですが、能楽ってすごい!伝統ってすごい!!と終始圧倒されっぱなし。佐渡で能を伝承している方々が、何気なく能を生活の中に取り入れている様子を見て、うらやましく思いました。自分が実際に舞ってみてはじめて、手の動き、足の運び、そういったすべてのことに意味があるということも知りました。長い時間をかけて愛されてきたものだからこその魅力を知ることができ、自分自身も成長できました。

柿木原教授:では、「競技かるた」についてお話しを聞きましょうか。実際に学んでみて、どう思いましたか?

川上さん:やってみたことのない人はたいがい「競技かるた」と聞くと、ものすごいスピードで札を払っているあのイメージが浮かぶと思うんです。でも、授業という形で学ぶことにより、ただ早く札を取るだけではなく、もっともっと奥の深いものだということを知ることができました。かるたを相手より早く取るだけなのに、『決まり字』*や『送り札』など、進行していく中で考えることがたくさんあるんですよ。場に並べた札を覚えるために試合前に15分間、時間が与えられるのですが、なかなか覚えられなくて……。

※「決まり字」とは、読み札が読まれる際、どの取り札を取ればいいのか、確定できる部分を言います。たとえば「い」で始まる歌は「いにしへの」「いまはただ」「いまこむと」と3つあるので、試合開始時の「決まり字」は「いに」「いまは」「いまこ」に。ただし、試合が進み、たとえば「いまはただ」の札がすでに読まれた場合には「いに」「いま」が決まり字にかわります。

柿木原教授:「競技かるた」を行う上で大切なのはどのようなことですか?

畠中さん:とくに重要になるのが『決まり字』です。『きみがため』、『あさぼらけ』など、同じ言葉で始まる歌が多いので、場に並んでいる下の句の札をよく見て、何枚同じものがあるか、今までに何枚読まれているかで、決まり字が変わってゆくので、それをひとつひとつ、頭に入れていかなくちゃいけないんです。こうした作戦なども、渡邊先生が丁寧に教えてくださるのですが……なかなか、先生と同じようにはできませんね。

柿木原教授:『小倉百人一首』を扱っての競技ですが、すべての歌を覚えるんですか?

川上さん:はい。すべて覚えなければいけないというのが、競技かるたの必須条件なんです。好きな歌から覚えるしかないのですが、これがなかなか大変で……。ちなみに私が好きなのは『つくばねの峰よりおつるみなの川 恋ぞつもりて淵となりぬる』という陽成院の歌で、好きな女性への恋心をストレートに詠った歌なんです。これは競技かるたでは『2枚札』と呼ばれ、冒頭の「つ」で2首まで絞り込める札なのですが、好きな札なので、絶対に自分が取るように、取りやすい右下段に並べています。

脚注:競技かるたでは、自陣の左右、上中下の3段に、25枚の取り札を並べます。並べる範囲は幅87cm以内という規定があり、手が伸ばしやすく、認識しやすく、相手から取りにくい場所に、自分が好きな札を並べる場合が多いんです。

柿木原教授:畠中さんも、好きな歌があるのですか?

畠中さん:私が好きなのは『うかりける人を初瀬の山おろしよ はげしかれとは祈らぬものを』という歌なのですが……これは「うっかりハゲ」という覚え方が面白くて、一番最初に覚えた札です。自分から心が離れてしまった女性の心を引き寄せたくて、長谷観音にお参りに行ったのに、冷たい山風が吹いてきて寂しくなった――という歌の意味は後から知ったのですが、どうしてもハゲのインパクトが強くて……。それで、この札が手に入ったときは下段に並べています。歌の意味だけじゃなく、違う方向から楽しむことができるのも、競技かるたの魅力ですね。

柿木原教授:「競技かるた」の授業では、学生同士で練習試合をするだけではなく、実際に大会などにも参加すると聞きましたが・・・?

畠中さん:はい。百人一首を覚えて、古代文学として和歌を鑑賞するだけではなく、実際に競技かるたの練習を積み、大会に出場するというのが、とても特徴的だと思います。授業が畳のある和室で行われるのも、この授業の魅力です。授業がなければなかなか触れることのできない世界に触れられて、サガジョに入学して良かったと思えました。

川上さん:『ちはやふる』というマンガが流行っていて、興味を持った人はとても多いと思うのですが、じゃあ実際はどこでできるの?どうやって覚えればいいの?って思う人がほとんどだと思うんです。それを授業で行ってくれるサガジョは、とても素敵な大学ですよね!

柿木原教授:ご担当の渡邊先生は、『ちはやふる』の作者の方とも交流がおありですよ。ところで、おふたりの大会での思い出を聞かせてください。

畠中さん:実際に参加した試合では、初めの試合は相手が落ち着きがなくて、私もつられてしまい苦労しました。2回戦の相手はものすごくルールに厳しい方で……相手のペースに飲まれてしまい、最終的に僅差で負けてしまいました。精神的な戦いが必要なのも競技かるたの世界。参加するチャンスがあったら、もっと心を強くもって、2回戦突破を狙いたいです!

川上さん:私は、初戦の相手が競技かるたでは有名な会の方だったんです(相手の方がその会の名前が入った服を着ていたのでわかりました)。ただでさえ、会場の張りつめた空気に圧倒されてしまっていたので、10枚くらい差を付けられるまで、何もできませんでした。なんとか挽回したのですが負けてしまって……。あの緊張感と空気感は他では味わえないもの。とても勉強になりました!

柿木原教授:それでは、どうすればこうした伝統を次世代につないでゆけるのか。みなさんがさまざまな伝統文化や伝統芸能を勉強してきた上で考えていることを教えてください。まずは春原さん。サガジョでの学びにより、何か意識は変わりましたか?

春原さん:そうですね。サガジョの学生は、こういった授業があることで、伝統芸能に触れるチャンスが広がるので、それはとてもありがたいことだと思います。この先私たちがやらなければならないことは、少しでも多くの人に、その魅力を届けていくことですね。難しいことかもしれませんが……。また、佐渡で行われている鬼太鼓など、地方の伝承文化にも興味がわきました。まだまだ日本には、学ぶべきことがたくさんあるので、もっともっと知る努力をしてゆきたいと思います。

斎田さん:実は私、自分自身で足袋をはいた経験が今までになくて、この能楽の授業が初めての経験だったんですよ!日本に伝わってきた古いことでも、学ぶことで新しい感覚でとらえることができるってわかったので……もっともっと、触れ合う機会を増やしていけるといいですね。

中川さん:茶道や華道は、やっている人が多いと思うのですが、日本にはまだまだたくさんの伝統文化があります。私は、能楽を学んで、能の舞台で使う太鼓に初めて触れたのですが、手を曲げずに叩くことは知りませんでした。ひとりでも多くの人が、こうした日本独自の文化を大切にし、次世代に残していけたら……うれしいと思います!

柿木原教授:なるほど。では、他にも習ってみたい伝統芸能や文化はありますか?

川上さん:今年の夏、祖父母と歌舞伎座に歌舞伎を鑑賞しに行ったのですが、イヤホンで解説を聞きながらだったので、セリフまわしや衣装などをじっくり見ることができ、初めてながらに面白く感じました。でも、イヤホンなしで聞けるようになれたら……ってそう思ったんです。かるたや能楽だけじゃなく、日本の多種多様な伝統芸能を学べるようになったらいいと思います。

畠中さん:授業で行ってくれるのであれば、茶道をやってみたいですね。個人じゃ手が伸びないことでも、授業なら敷居が低いというか……やろうかな?って思えるんですよね。もっともっと、サガジョならではの授業が生まれて、世界に誇れる日本の伝統文化を学んでゆきたいです!

柿木原教授:なるほど。教員としてもとても参考になります。みなさん、ありがとうございました。

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